Copyrights 2012 Hiroyuki Noritake

Essay

Vol.19

ドンガラガッチャ~ん!パリ~ん!・・・ドボっ。
「うわっ、さいあく~・・・。」
「いやっ、さ~いあくぅ~~・・・。」

寝室のとなりのキッチンから漏れ聞こえる、佐渡夫妻の良からぬ騒ぎに、僕は驚いてベッドから飛び起きた。なんと、佐渡さんご自身が作ってくださったHam & Eggがフロアーの餌食に!

「則竹さん、朝食抜きでもかまへん?」
・・・そんなことより、切ない佐渡さんが気の毒でなんとお声をお掛けすれば良いのか・・・絶句。次の瞬間の奥様の一言を僕は忘れない。
「これで厄払い、か~んぺきやね!」
なんて素敵なご夫婦なのだっ!!

そんな最高の厄払いを済ませて僕達は、会場であるTheatre du Chatelet へ向かう。ノートルダム寺院からほど近くに建つ、セーヌに面した素晴らしい劇場だった。こんな場所でParis デビューさせてもらえるなんて・・・。

感慨に耽る間もそこそこに、大慌てでセッティングを済ませ、即ゲネプロ開始。

ステージの都合上、僕のドラムはヴァイオリンのすぐ後ろ手。音を出すなり嫌な予感は的中した。スプラッシュをピシャンッ!とやったその瞬間だった。最後列二人の女性ヴァイオリニストは即座に弾くのを止め、耳を押さえ、顔をこれ以上ないぐらいに歪ませて僕を振り返りざま睨んだ。

確かに借り物のそのシンバル、ちょっとばかし嫌なピークがあったけど、そんなん、しゃーないやん!譜面に、ほら、ここに「splash pissya~n !!」て書いたーるやん?それに佐渡さん、「則竹はん、もっと来い~!」ゆうてはるやん!

でもここまで来て皆とケンカしたないやん?僕、舞台スタッフ呼んでゆ~たった。
「すんませ~ん、ムッシュ~?ちょっと後ろにさがりたいでジュテ~ム。」
「気にするなヒ~ロ!すぐにエエもん持ってきてあげるヨックモック!」

間もなく僕の前には透明なアクリル板が立てられた。でもこれでは全体の生音のバランスがとり難くて演奏しづらいし、オケのピアニッシモだって聴き取りにくくなってしまう。え~らいこっちゃなぁ。・・・次の瞬間の佐渡さんの一言を僕は忘れない。

「誰や、勝手にそんなん立てたん!僕の許可なく勝手にステージ上のアコースティック変えるな!すぐにその板どけたれ!」

件のヴァイオリニスト二人はステージ下手の端へと移動していきました・・・もう僕は半泣きでした。まだ、朝の11時。容赦なく本番の幕は上がったのです・・・。

ピッ、Peace・・,