Copyrights 2012 Hiroyuki Noritake

Essay

Vol.48 / 2011.2.15

僕の2011年はシエナ・ウインド・オーケストラと共に幕開けた。結成20周年記念コンサートへの客演。とても光栄なことであり演目を楽しみにしていたのだけれど、僕へのオファーは『長大なドラムソロ、お願いします!』だった。てっきりバーンスタイン作品の鬼気迫るアンサンブルに再チャレンジか!?・・という流れを勝手に想像して鼻息を荒げていただけに少々残念だったけれど、重責には変わりない。佐渡さん×シエナとの出会いが僕の音楽人生に与えてくれた宝物のような時間に、今こそ恩返しできるチャンスなのだ。とはいえ長大なドラムソロ・・頼まれてもいないのにそうなってしまいました、ゴメン!というのが僕の本分であるから、『長大を頂戴!』といわれても案外と困るのだ。おかげで悶々とお正月休みを過ごすこととなる。広大ならアフリカのサバンナ、ロシアのツンドラ、長大なら万里の長城か?と月並みに思いを馳せながら雑煮を食べる。家のお雑煮はなんでこんなに美味しいのか?この家に生まれてよかったなぁ。

迎えた本番。それなりに長大な地図を頭に描いてステージに上がる。冒頭はバスドラムをフォルテッシモで2発と決めていた。『ドドーンッ!!』・・あまりの響きの美しさに頭の中が真っ白になった。そこから先、無我夢中の恐らくは4~5分の出来事を、全くと言っていいほど覚えていない。千数百人のオーディエンスに向けて、イメージの細部に至るまでナマ音で伝えるなんて芸当は、僕にとってはここでしか試すことの出来ない貴重な体験。彼らへのお祝いの気持ちと感謝の気持ちが・・伝わっていたらいいなぁ。

というわけで今年ももう2月。巨匠・渡辺香津美さんとの怒濤の『Jazz回帰』ツアー、それから幾つもの海外公演を重ねて絆深めた『unit asia』の国内ツアーを終えて、しばしの休暇を楽しんでいる。朝ゆっくりと目覚める。日頃から感じていた問題点をじっくりと見つめ直す。近所のスタジオへ自主トレ。帰りがけにスタバでソイラテ!本当は熱海のスタジオに籠るのがベストだけれど、こういう東京Lifeも悪くないものだ。そして!今こそエッセイ更新のチャンス。そう、僕には書かねばならないことがあるのだ。この半年間、書きかけては頓挫してを繰り返したエッセイ・・

あれは一昨年の9月、J-WAVE主催のコンサートでの出来事だった。今をときめくJ-Popアーティスト達が集うこのイベント。サポートの仕事をお引き受けしたときにその切符は用意されていた。僕にとって、ひときわ大きな意味を持つことになるこの切符。その行き先は歌手・平原綾香さんとの出会いである。
リハーサルで初めてお会いしたその瞬間に、彼女が特別な人であることを予感する。そしてマイクを握り歌い始めた瞬間、予感は確信となった。見慣れたスタジオ内の空気がみるみる浄化されてピンと張りつめていくようだった。まるで教会か神殿、寺院のように。突如出現した慈悲に満ちたこの音宇宙にただ抱かれて、芯から末端まで、僕の体中の細胞が喜びに震えているのがわかった。彼女がスタジオを立ち去った後も暫し呆然。あまりにもビューティフルな体験だった。本番を終えた数日後、共演できたことへの感謝の気持ちを込めて、恐らくは人生最初で最後のファンレター・メールを送った。今回の出来事の意味を、他でもない自分自身のこころの記録に留めておきたかったからである。

2010年5月。僕は綾香さんと、そして彼女の音楽を共に作り上げるための素晴らしい仲間達と共にスタジオにいた。10月まで続くコンサートツアー『from The New World』に参加するためだった。ほとんどが初顔合わせのはずなのに、妙に懐かしい。ここで会うことを遥か昔からみんなで約束していたように。

実際的に懐かしい要素もあった。それはギタリスト古川昌義さんがご一緒だったこと。彼とは高校時代にバンドをやっていた旧知の仲。なのにその後互いに上京してからというもの、全くといっていいほど仕事の接点がなかった。28年の空白を埋めるにこの上ない、素晴らしい時間の始まりの予感にワクワクする。
それからもうひとつ。長い全国ツアーに出るための、この長いリハーサルの日々!この感覚が僕にはとても久しぶりだったのだ。思えばスクエア時代のあの頃、僕はこの時間が大好きだった。退団してからというもの、当日リハーサルだけでツアーに出るようなパターンが普通になって、短い準備で最大の効果を上げることに血眼にならざるを得ない、そんな日常を送っている。それはセッション・ミュージシャンの宿命かも知れないし、Jazz系ならば尚のことであろう。だけれども、時間をかけてこそ初めて到達し得る、眩いアンサンブルの世界が厳然と存在することを、僕は長年のバンド活動を通して知っている。

こうして奇跡のツアーは始まった。本当に毎ステージがかけがえの無い幸せに満ちていた。かつて毎週末のステージをこれほどまでに心待ちにしたことがあっただろうか・・?寂しいことに、音楽には演奏を重ねるごとに失われていく何かもあることを、僕らはみんな肌で知っているけれど、それを補って余りある想像力と気力が、チームを前へ前へと押し進めていった。彼女の音楽を、より広い宇宙に響かせ届けたい!!と願う僕らメンバー、スタッフの強い思い。だけど彼女の音楽への、聴衆への、それから僕らへの愛の大きさは、それを常に一歩リードしていたように思う。もし救世主が人間の格好をしているとしたら、それは彼女なんじゃないか?そう考えるほかないのである。

あのとき手にした切符の向かう先。それは僕自身が求めていた『New World』そのものだった。大切なことを本当にたくさん教えてもらった。この旅路に同行できたことへの感謝の気持ちは、どれほどの言葉をもってしても表しきれない。ツアーを終えて、自分自身が到達し得なかった沢山のことが、今なお僕の音楽生活に大きなモチベーションを与えてくれているのです。

今年も真実の音を求めて、しっかりと歩み続けよう。それはきっと自分だけの為じゃないはずだから!!

Peace,